蟹取県のカニダー【第4話:ワギュウダーの刻印】

第4話

国道9号線を、カニダーの赤いオープンカーがいく。

夕焼けに映える姿は、いつもの派手さがなく冴えない。

彼は打ちひしがれていた。

たまらず車を国道脇のパーキングに停め、海を眺める。

横顔に敗北感が漂う。

〈回想シーン〉

みずから拘束の縄をとき、鳥取和牛のしゃぶしゃぶを味わい尽くすみや子。

その姿を眺めながら、身もだえするカニダー。

カニダー「ああ!みや子さん!!やめろ〜!やめろワギュウダー!!」

ワギュウダー「ガハハハハハハ! ガハハハハハハ! アァ…、 アァ…。」

笑いくたびれたワギュウダーが、カニダーに向きなおり、語る。

ワギュウダー「いいかカニダー。お、ま、え、に、教えてやる。

高級和牛の頂点に立つ“しるし”ってやつだ…。

俺のベルトをよ〜く見ろ!」

腰の両脇に手をやって示唆するワギュウダーのベルトのバックルに目をやると
そこには〝鳥取和牛オレイン55〟のエンブレムが。
燦然と輝くそのブランドロゴを、まばゆそうに眺めるカニダー。

カニダー「むむ!」

カニダーはさらにまじまじとエンブレムを眺めた。

カニダー「う〜む、なんだか焼きゴテであてた刻印のような…」

ワギュウダー「ムフゥー!!よくぞ気がついたなァ。なぁカニダー。
俺たちがこだわる〝ブランド〟という言葉の語源、お前は知っているか。
今でこそ「銘柄」や「商標」として定着している言葉だが、そもそも、俺たち
肉牛にも押されていた「焼印」という言葉に由来するのなのだ。つまり、「銘」を
この体に刻んできた俺たち牛は、この世のどんな食材よりも〝ブランド〟を背負
って生きた歴史が長いのだ!」

想いのたけを吐き出すだけ吐き出し、大型バイクにまたがるワギュウダー。
その顔は優越感に満ち溢れていた。

それに遅れじとバイクのサイドカーに同乗する食乃みや子。

カニダー「ああ!! みや子さん!!」

呼び止めの声もそぞろに、食乃みや子は渡されたヘルメットを慣れた手つきで受け取り、被る。

大型特有の排気音を奏でるバイクは二人を乗せ、煙を残し去っていった。

〈回想シーン終了〉


海に沈む夕日を眺めるカニダー。

「なんでお揃いのヘルメットなんだ…。
いやいや! いかん! そうじゃない! そんなことよりも…」

おのれのヘソに目をやるカニダー。

視線の先には貧相なベルトがあるだけだった。

「俺サマにもあんな“しるし”があれば…。」

ふと見上げた暮れゆく空に、カニ座が輝く。

「おや…。いつもより早いな。まだ明るいが…。」

あたり一帯が怪しいトワイライトゾーンに入り込んでしまったようだった。

「ま、いいや。帰ろお。」
車に向きなおるカニダーの背後に、怪しい陰がのびる。

 

【第5話:そして海底かに牧場へ】に続く


TOPICS